中村正人氏 スペシャルロングインタビュー vol.2 2015年ワンダーランド・イヤーを振り返る

音楽の経験地の重力によって、古い新しいという感覚の基準が変わるんだということを、このリクエスト結果から感じた

  • リクエスト投票 最終結果発表!!

―特設サイト内で、ワンダーランドに向けてのリクエスト曲の投票が行われました。1位の「何度でも」から30位までサイト内で発表になっていますが、この結果を見てどう思われましたか?

順当と言えば、順当なんですが、僕らにとってはうれしいところもありました。僕らって、「昔のドリカムは良かった」ってずっと言われ続けてきて、ふてくされていたところもあったんですよ。昔のドリカムって、EPIC時代のカタログなんだろうなと解釈していた。ところがユーザーにとっては、今や、「何度でも」が昔のドリカムになっていたって気が付きました。2005年にリリースされた曲なので、10年前なんですが、それが昔という感覚なんだなって。
そうした人達にとっての今のドリカムが何かって言うと、一番新しい作品だったりする。ブラックホールじゃないけど、音楽の経験値の重力によって、古い新しいという感覚の基準が変わるんだということをこのリクエスト結果から感じました。

―ベストアルバムのタイトルを『私のドリカム』としたのはどういう理由からですか?

実はカバーアルバムを制作したところから僕らの作戦は始まっていまして。カバーアルバムを『私とドリカム』というタイトルで2枚出して、そこから連続性を持たせて、『私のドリカム』というタイトルのベストをリリースしたらどうだろう?ということになった。もうひとつ、さっきも言いましたが、ドリカムのファンじゃない方が圧倒的に多いので、私だけのドリカムの曲が集まった作品というニュアンスもありますね。リスナーがカラオケに行って、「私のドリカムの曲はこれよ」ってリストに入れて歌う曲を集めたので、『私のドリカム』がいいかなと。

―リクエスト曲にはその理由も書かれていますが、それぞれの人生の出来事や思い出と曲が重なっていて、そういうところでもまさに『私のドリカム』ってぴったりですよね。

歴史のBGMとして鳴ってくれるならば、こんなうれしいことはない。僕にとってはビートルズ、アース・ウインド&ファイアーはもちろんのこと、70年代のワンヒットワンダー(一発屋)の1曲しかないヒット曲をいまだに歌えたりするように、我々の楽曲がその人の大切な1曲になってくれるのが目指すところですね。

―曲って、記憶と結びつきますもんね。

曲はタイムマシンみたいなものですからね。

―良い作品を作ることと広い層の多くの人の支持されることが両立しているところも素晴らしいです

両立しているかどうかわからないですね。我々は音楽家である以上、良いもの以外は作ってはいけないんですが、それが良いものと判断するのは第三者なので、そこは委ねようと。もちろん僕らは常に100パーセントのいい曲を作っていると思っています。だからリクエスト順位のどんケツになった曲名を見て、こんないい曲なのにどうしてどんケツなんだ!?ってムッとしたりする(笑)。でも音楽は発表した後は僕らのものではないというのが基本的な考え方ですよね。

  • 中村正人

作品を残していくのが目標 何万年経っても吉田の詩が残ってくれることが僕の目標です

―多くの人に支持される曲を作る秘訣はどんなところにあると思いますか?

僕らはポップスのバンドだし、ポップスってポピュラリティーということなので、多くの人に聴かれないと意味がないと思っているんですよ。ただし多くの人に聴かれない音楽が駄目な音楽というわけではない。自分のためだけに作る音楽もあるし、ポピュラリティーがなくてもかまわないという音楽を追究する音楽家の方もいるだろうし。ただ、僕が吉田美和と出会ってやりたいと思ったのは吉田美和の歌う歌が流行ってほしいということ。単純にそこなんですよ。だから楽曲も売れるために作っています。アレンジも売れるために作っています。

―それはクオリティーを追求するということとイコールなんですか?

完全にはイコールではないですね。クオリティーを追求しすぎると、売れないこともありますから。

―わかりやすく伝える必要もあると?

そうですね。凝りすぎてもダメだし、間引かなきゃいけない時もある。ただ、個人的には凝って作ったものが売れると、喜びは大きいですね。ポピュラリティーのある曲の間に挟んで、そっと隠して出すこともある(笑)。例えば、『The Swinging Star』は三百何十万枚か売れたんですが、その中にはすごくマニアックでポップスを狙ってない曲もあるんですよ。それが時間が経ってみると、売れた曲よりもみなさんの記憶に残る曲になっていくこともある。そういう時はやった~!と思いますね(笑)。

―ベストアルバムに「あの夏の花火」の新録音バージョンが入っているのも素晴らしいと思いました。過去があって、今があって、未来へ続いていくことも見えてくる気がしました。

この曲は僕と西川と吉田と3人で作ったということもあって、入れたかったんですよ。僕らは過去を否定するつもりもないし、隠すつもりもないですから。未来ということで言うならば、いずれDREAMS COME TRUEという名前も忘れ去られて、吉田美和という名前も忘れ去られて、メロディも忘れ去られた時に、吉田美和の歌詩だけが残ると僕は思っているんですよ。だから吉田美和歌詩集を出した。そういう意味でも『私のドリカム』というか。SCANDALが歌ってくれた「大阪LOVER」にしても、E-girlsが歌ってくれた「うれしい! たのしい! 大好き!」にしても、彼女たちのファンはそっちのほうがオリジナルだと思っているはずです。例えば、「ヘルプ」という曲は僕にとっては本音を言えばビートルズのものではなくて、カーペンターズのものなんですよ。僕はカーペンターズの「ヘルプ」をこよなく愛していたので、ビートルズのオリジナルを聴いた時に、このバンド、なんなんだ!?って(笑)。だけど、「ヘルプ」は「ヘルプ」じゃないですか。僕らが目指しているのはそこですね。いずれ僕らも忘れ去られ、吉田も忘れ去られ、もちろんメロディは覚えてくれればいいなあとは思いますが、それも忘れ去られ……。

―でも歌詩とメロディって一体のものだから、メロディだけが忘れ去られることはないんじゃないですか?

一体だとは思うんですが、そこから引き離したとしても成立する詩がある。例えば万葉集だってきっと音程が付いていたと思うんですが、今はもうないでしょう。

―今はいろいろな記録媒体があるから、残るんじゃないですか?

や、安心できませんよ(笑)。人類が滅亡した時にそこに残っているのはボロボロになった本だけかもしれない(笑)。そう考えると、やはり作品を残していくのが最終目標ですね。何万年経っても吉田の詩が残ってくれることが僕の目標です。

「LOVE」「TEARS」「LIFE」歌詩集、ベストアルバムが、ワンダーランドでよりダイナミックなストーリーを紡ぎ出す

  • 「LOVE」「TEARS」「LIFE」歌詩集

―『LOVE』『TEARS』『LIFE』という歌詩集、さらには同じく『LOVE』『TEARS』『LIFE』という3枚に分かれたベストアルバムとワンダーランドは連動しているのでしょうか?

連動しています。ただ、歌詩集の『LOVE』『TEARS』『LIFE』の選曲と『私のドリカム』の『LOVE』『TEARS』『LIFE』の選曲は違うんですよ。豊﨑由美さんという素晴らしい書評家が客観的に吉田美和の詩をアナライズしたのが歌詩集で。ここですでに僕の最終目的が動き始めていて、ドリカムから吉田美和の歌詩をひっぺがしていく試みが始まっていますね(笑)。CDの選曲と歌詩集の選曲でいろんなねじれもある。歌詩集から見ると、『LIFE』なのに、音楽では『LOVE』だったり、音楽では『TEARS』なのに、歌詩集では『LIFE』だったり。そのねじれがおもしろい。ワンダーランドではその3D感というか、ダイナミクスも味わえると思います。

―ワンダーランドの選曲はこのリクエストの結果を踏まえたものになるんですか?

そうです。四の五の言わず、この中からやります。毎回、ワンダーランドでは吉田のさじ加減と言って、リクエスト曲ではない曲をやるコーナーがあるんですが、今回はないです。強制削除(笑)。

―選曲会議はもめることなく?

ほぼすんなりですね。ただ30位前後が難しかった。かなり数が接近しているんですよ。そこで吉田のさじ加減が発動してます(笑)。

  • DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2015

―『LOVE』『TEARS』『LIFE』という3つはステージの構成のポイントになっているんですか?

それぞれ『LOVE』『TEARS』『LIFE』に強制的に分けられてしまった歌がそれぞれ団を構成していて、『LOVE』こそがドリカムである、『TEARS』こそがドリカムである、『LIFE』こそがドリカムである、ということで3つの団に分裂してしまったという設定のもとで、ストーリーが展開していきます。その物語を縦糸に織り込んでいくエンターテインメントになっていますが、難しくしたくないので、ただただ楽しんでもらえたらと思っています。

DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2015

―ワンダーランドに来場される方、来たかったけれど、来られない人に向けて、それぞれメッセージをいただけますか?

来てくださる方には、今回はこういうストーリーがすでにあるので、公開されている物語を読んでいただいて、楽しんでほしいですね。もちろんこのストーリーを知らないと、楽しめないというわけではないんですが、ハロウィン・パーティーで、こういうテーマがあるから、ちょっと仮装してきてね、みたいな感じで、楽しみ方が広がっていくアイテムのひとつになっている。今回来られなかった方には、必ず映像作品にしてどこかで流すので、そちらを楽しみにしていただきたいですね。映像でも伝わる作品にしますので。

―吉田さんはまた飛ぶのでしょうか?

必ず飛びます(笑)。これはもう91年からの決定事項です。今回はどんなふうに飛ぶのか、楽しみにしてください。

インタビュー・文:長谷川誠 / 写真:Tomiyuki Takahashi